「ほめる技術,しかる作法」を読んだ感想とまとめ
2019/11/04
大学生のときに何かの授業で書いた,「ほめる技術,しかる作法」という本の書評です。
パソコンに保存しておくのもなんかもったいないので,ブログに投稿してリサイクル。
総論
本書は単なる処世術を述べた実用書のようにも見えるが,心理学者である筆者の特性上,対人関係とはどうあるべきかという根本的な考えから褒めること・叱ることの役割について深く踏み込んだ記載がなされている。
そのため,出発点である思想から実態的なコミュニケーションの技術を演繹的に理解できるようになっている。
論理構成としては,まず褒めることについて述べ,その後に叱ることについて解説している。
その中で,それぞれ能動的な技法と受動的な技法について細分して解説する方法をとっている。
「ほめる」と「しかる」はバランスがポイント
序章では,現代では,雇用の流動化や価値観の多様化の影響で,褒める・叱るという行為をした際に他者の行動予測がしづらくなっていることが指摘されている。
若手社員を下手に叱った場合は簡単に会社を辞められたり,下手に褒めた場合は調子に乗られたりしてしまう場合がある。
そのため,褒めるだけでは緊張感の欠けた職場になりがちで,叱るだけでは部下を鼓舞できない時代になっているとしている。
筆者は業務的な指示・伝達だけでコミュニケーションが終わってしまうような「ほめるカルチャーもしかるカルチャーも根付いていない職場」が非常に多いことを指摘し,適切な褒め方・叱り方を伝えること本書の目的としている。
ほめる技術
第1章では,まず褒めることの効果について述べ,その後,他者を褒められない理由,褒める技術について述べている。
筆者は褒めることの効果として,他者を褒めることで良好な人間関係を築くこと,相手へ具体的なフィードバックを与えること,他者のセルフイメージを高めること,自分自身がポジティブになることの4つを挙げている。
また,他者を褒められない理由として,照れが邪魔をする,できて当たり前という意識がある,人間としての器が小さい,ほめることの大切さを自覚していないといった4つの点を指摘している。
その後,褒める技術としてまずは質よりも量を増やすことを重視し,徐々に相手に対し適切な褒め方ができるようなポイントが紹介されている。
ほめられる技術
2章では褒められ下手の心理構造と褒め言葉に対する返し方について述べている。
スポーツなどを例に挙げ,日本人には喜びを素直に表情や態度に表すのが好ましくないとされる傾向があることを指摘し,過度に謙遜をすることは相手に失礼になるが,受け取り方を間違えれば叩かれるため,褒めることよりも褒められることのほうがさじ加減が難しいとしている。
しかる作法
3章では,まず他者を叱ることが難しくなっている理由を述べ,その後,叱る態度の身につけ方から適切な叱り方まで説明を行っている。
日本の職場もアメリカの職場のように,上下関係・一体感などが消失しつつあり,また,IT化により上司の成功体験が部下に通用しなくなっているため,職場が叱りにくい環境へ変化していることを述べ,冷静な指摘から相手によって優しくしかることや激しく叱ることを使い分けることを提案している。
また,叱ることの目的は感情的に相手を否定して人間関係を壊すことではなく,あくまで問題点を認識してもらい,改善を促し,良好な人間関係を築くことだとしている。
しかられる作法
4章では叱られる際の心持ちと上手な叱られ方について述べている。
叱られるということを,人格を責められていると捉えてしまうと,自己の改善点を見つけ成長に結びつけるチャンスを失ってしまうとして,良好な人間関係を築くための叱られ方について述べている。
総括
本書は,企業内でのコミュニケーションを題材に,褒めることと叱ることを分析したものであり,時代の流れからコミュニケーションの諸問題が指摘されていた。
現状の企業環境を述べる際に筆者のコンサルティング経験などを元に述べられる部分が多く,学術的な調査結果や統計的なデータを示されている箇所は少なかったため,具体的な技術面の紹介では,説得性や客観性が多少欠けているように感じられる部分もあった。
しかし,抽象的な総論では理にかなった論理展開がなされ,読んでいて納得できる部分が多かった。
会計やビジネスという観点では,本書に述べられているような褒める技術や叱る作法を適切に把握し遂行することで円滑な人間関係を築けるようになるため,コミュニケーションコストを下げる効用があると考えられる。
その結果として製品作成における歩留や従業員の退職が減少し,有限の資金や時間をより能率的に活用できるようになるなど,計り知れない可能性が感じられた。
文献選定の理由
本書は数年前に私が個人でWebメディアを作成していた頃に購入したものである。
その業務では文章執筆の一部を外部のライターに依頼していたが,納品される文章に品質的な問題があることも多かった。
そのため,ライターと円滑な関係を築きつつ,問題点をどのように指摘し改善してもらうか方向性をつかみたいという意図があった。