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「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」書評とまとめ

2019/11/04

大学生のときに何かの授業で書いた,「MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣」という本の書評です。
パソコンに保存しておくのもなんかもったいないので,ブログに投稿してリサイクル。

総論

本書は,技術経営学の博士号を取得した後,シリコンバレーでスタートアップの経営をしているソフトエンジニアであるシバタナオキ氏が,我流で身につけた決算の読み方について解説をしている本である。

5つの業態と,企業買収に関する決算について別個に解説を行っている。
それぞれの章で各ビジネスモデルの方程式,決算を読むコツを紹介した後,決算読解の実演を行う構成をとっている。

第一章 決算が読めるようになると何が変わるのか?

第一章では,決算を読む習慣が,財務・会計担当者以外の人のスキルアップやキャリアアップに役立てられるということを述べている。

クライアントの決算を読み込むことによりコンペの勝率が上がった営業担当者の例,競合の決算を読み込むことによりビジネスセンスを身に着けたエンジニアの例,同業界の決算を読み込みより成長性が見込める企業へ転職をした例などが紹介されている。

第二章 ECビジネスの決算

第二章では,まずECビジネスの方程式として「ネット売上=取扱高×テイクレート」を紹介している。

直販型のECビジネスは取扱高が大きいほど大量の仕入れが可能となり,仕入値を下げることが可能となる。
そのため,強者がより大きな市場シェアを取りやすくなるとされている。

一方,マーケットプレイス型のECビジネスは,取扱高が増えると出品者にとって魅力的であり,出品者が増えるとユーザー側にとって魅力的であり取扱高が増える。
そのため,「場」の魅力に依存するビジネスであり,その魅力によってテイクレートを上げることができるとしている。

第三章 FinTechビジネスの決算

第三章では,FinTechビジネスは

  • お金を預かる機能
  • お金を貸す機能
  • 決済・送金をする機能
  • ソフトウェア

の4形態とし,これらのビジネスの売上収益はそれぞれ

  • 預金残高×金利
  • 貸付残高×金利
  • 取引高×手数料パーセント
  • ソフトウェア代金

といった式で表せるとしている。
預金や貸付の業務ではこの「残高」というストックが重要となり,決済・送金の業務では「取扱高」というフローが重要となることが説明されている。

第四章 広告ビジネスの決算

第四章では,まず広告ビジネスの方程式として「売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)」を紹介し,いかに多くのユーザーを集め,1ユーザーあたりの売上を最大化するかが全てであるとしている。

テレビは多くのユーザーにリーチすることができ,インターネットメディアはユーザーやコンテキストに応じた広告の配信が可能であることを紹介している。

第五章 個人課金ビジネスの決算

第五章では,個人課金ビジネスが広告ビジネスと同様に「売上=ユーザー数×ARPU」が成り立つ点で非常に似ているが,提供サービスの一部のみを課金モデルにしているケースが多いことを紹介している

個人課金ビジネスは

  • 売上=広告売上+課金売上
  • ARPU=広告ARPU+課金ARPU

といった式で表される。

第六章 携帯キャリアの決算

第六章では,携帯キャリアビジネスでも「売上=ユーザー数×ARPU」が成り立つため,ユーザーを増やし,利用頻度を上げることがビジネスの基本路線であると紹介される。

ここで,ARPUが「音声ARPU+データARPU+サービスARPU」で表すことができると紹介されている。
音声,データ面での差別化が難しいため,

  • エンタメのドコモ
  • 金融のKDDI
  • ヤフー任せのソフトバンク

といった形でサービスARPUの差別化を図っていることが述べられる。

また,携帯キャリア市場は規制産業であるため新規参入が起こりにくいビジネスであることが紹介される。

第七章 企業買収と決算

第七章では,まずM&Aをした企業の決算の方程式として,

  • 売上マルチプル=買収金額/売上
  • 営業利益マルチプル=買収金額/営業利益
  • のれん代=買収金額-買収対象の純資産額

を紹介している。

マルチプルは買収金額が年間売上・営業利益・純利益の何倍にあたるのかを示す指標である。

IFRSを採用している場合はこの際にのれん代として計上された資産に減損が起こり得るため注意して見るべきだとしている。

終章 決算を読む習慣をつける方法

第八章では,決算を読む習慣をつける方法コツとして,関心がある業界の決算を1社15分で読むことや,決算から得た知識を実際の仕事で使ってみることが紹介されている。

総括

本書は,簿記や会計のバックグラウンドがない読者も理解しやすいように決算の読み方を丁寧に解説していた。

また,企業が公表するデータから収益構造を分解することにより,財務的な情報のみならず,ビジネスモデルからマーケティングの戦略,他社との差別化など,深い部分まで企業を理解できることが分かった。

ただ,本書の大部分が実際の決算を読み解く実演が占めており,自身で未知の決算を分析できるまでの力を身につけるには一般化された方法論などの記載が少ないようにも思えた。

文献選定の理由

あるブログで「決算説明会資料で前回開示されていなかった数字が出てきたり,前回開示されていた数字が資料からなくなっていたりした場合,それが強調したい数字であったり隠したい数字であることが多い」という考え方が述べられており,そういった視点に感心した。

その考え方のソースが本書であったようなので詳しく読んでみたくなった。

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