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大前研一「企業参謀」を読んだ。感想とまとめ

2019/11/04

今年入社した会社で、研修の一環として課題図書が課されました。

業務時間外に読む必要があるので、悪く言えばサービス残業なのですが、自分が興味のある本を自由に買ってもらえるとのことで、個人的には良い機会が貰えたのかなと思います。

以前から読みたかった大前研一氏の「企業参謀」を課題図書として買ってもらいました。

企業参謀ってどんな本?

企業参謀の筆者である大前研一氏は、MITで工学博士を取得し、日立を経てマッキンゼーのコンサルタントになった人です。
マッキンゼーに入社してからの3年間で大前氏がノートにまとめていたコンサルタントとしての知見を、1975年に書籍化として出版したのが企業参謀という本です。

世間的には「暗黙知であったマッキンゼーの戦略的思考を体系化した本」というような扱いを受けており、「デキるビジネスマンなら誰しも読んでいて当然」というような風潮があったり、なかったりします。

最近の新装版だと1977年に出版された「続企業参謀」がⅡ部という形で載っています。
あと、大前氏が最近書いた(?)先見術に関する文章もオマケで付いてきます。

ちなみに、一部界隈では「大前研一氏は企業参謀で食いつないでいる企業参謀おじさんだ」と揶揄されることがあります

全体の感想

戦略的思考のケーススタディが得られる

実際に読んでみて、確かに良い本だと思いました。

近年のビジネス書籍は、
・自己啓発に近い「思考」を中心に語る本
・手法にすぎない「フレームワーク」の紹介本
のように、役割で分極化されたものが多いです。

一方で、企業参謀は具体的な事象と抽象的なフレームワークを深く対応させた記述を行っており、「本当の戦略的思考とはどんなものなのか」を追体験できるような本となっていました。

ただし、「思考」部分よりは「分析や計画をする際の具体的手法」にかなり踏み込んでページ数を割いています。
なので、内容を全て有効に活用できるような人はかなり限られるのかなと感じました。
大前氏と同じ戦略コンサルタントの職業をする人や、会社の経営陣にはダイレクトに効くと思いますが、起業や事業のスキルを上げるために読むのは少し視点がずれます。

ですので、中身をちゃんと読めば「ビジネスマンなら誰しも読んでいる教養本」というような感想は出きません。
「(よく理解できなかったけど、)こんな複雑っぽい本を読めちゃう俺、スゲェんだぜ」的アピールに使われやすい本なのかもしれませんね。

文章が読みづらい

本を読んでいてまず、文章がかなり読みづらいと感じました。
内容が複雑という以上に、当時の大前さんの日本語力が低いんだと思います笑

アカデミック界で訓練を受けてきた人特有(?)の回りくどい言い回しが多いです。
あと、筆者が経験や知見を披露したいがために話が途中で脱線している部分がかなりありました。

真面目に文章を追ってしまうと、「で、結局何が言いたいの?」という部分が見えにくい本ですね。

出される具体例が古い

やはり40年近く前に出版された本なので、書籍内で出される例は少し古いです。

統計資料などは当然当時のものですし、筆者の時代感にも若干のずれがあります。
(近年は市場の資金流動性が失われてきたため、資金量の投入量を考慮した指標の利用が重要である。みたいな記述があったりする)

とはいえ、時代が変わっても考え方は十分今でも通用するものばかりです。

むしろ書籍内で述べられている未来の答え合わせが出来て楽しいような部分もあるので、一概にデメリットだとは言えないと思います

副読本を使って読むと、理解が深まる

私は、「企業参謀ノート」という本と一緒に本書を読み進めました。

2012年に出版された要約版なので、さすがに大前氏の日本語力もかなり上達していて()、内容が簡潔にまとまっています。

具体例に関しても、現代の基準に見合ったものが改めて紹介されるので、これがあると原書がとても理解しやすくなりました。

「ノート」なんて名前がついたので、中学生の学習ワークみたいな感覚がして読むのに気が引けたのですが、内容はとても良質でした。

一度企業参謀を読んでみて、内容が理解しづらいと感じたら購入を検討してみると良いと思います。

内容まとめ(ネタバレ)

本書のテーマである参謀は、「自分の頭で答えを考え出す仕事」として紹介されます。

これは問題に対する分析だけでなく、「提案・計画・実行」まで戦略的な解決を目指す役割として、単なる分析家や評論家とは異なるとしています。

本書内では、企業経営における参謀としての仕事が、具体的な思考ツールと共に紹介されていますが、筆者の大前氏は、あくまでそれをツールだと割り切り、具体的な行動に落とし込んだ結論を実行することが最重要だとしています。
(この文脈で、「大前研一は脱フレームワーク派になった」なんて言われたりします)

ツールだけを触るのは、天気予報をみて「今日の降水確率は50%かぁ、ふ~ん」と言っているだけの状態であり、ツールで得られた情報から「傘を持っていこう」の判断をするのが課題解決の本質・参謀の仕事だということです。

戦略的思考

戦略的思考とは:混然一体としたものを解きほぐし,解きほぐされた個々の要素が全体に与える影響を理解する分析を行い、経営者や上司が実際の行動にしやすい形に再構築を行うこと

課題の発見

課題は、現象から問題点のグルーピングを行い、抽象化のプロセスを経て認識される。
このプロセスを経ないで問題点を短絡してしまうケースが多い。

×:疲れがち→疲れないためにはどうするか
×:遅刻しがち→遅刻しないにはどうするか

○:疲れがち、遅刻しがち→背景:会社で残業をしており寝るのが遅い
→真の問:タスク管理をどう上手くするか

設問の設定([P]DCA)

設問を解決策志向的に行う。これにより、YES/NOの答えを出すために相応の分析が可能となる。

×:なぜ売上が落ちているのか?
○:売上が落ちているのはマーケットサイズの縮小によるものか?

分析(P[D]CA)

「イッシュー・ツリー」「プロフィット・ツリー」などの手法を用いて要因を分解する分析方法が紹介される

問題解決成功の指標(PD[C]A)

問題解決成功の尺度として、

・会計情報(売上高利益率、総資産利益率、使用総資本利益率)
・PIMS(ハーバードビジネススクールとGEの戦略計画研究所が、経営・事業の戦略と業績の関係について共同調査した客観的な事業のデータベース)

について紹介される

企業における戦略的思考(PDC[A])

中期事業戦略の作成

数十年にわたるような長期計画は空想に近いものになり、短期の詳細な判断は現場に任せるべきであるため、中期事業戦略の策定を参謀の役割として挙げている。

①実現可能な範囲での目標値の設定
②現状維持での基本ケースを算定
③原価低減改善ケースを算定
④市場・販売改善ケースの算定
⑤戦略的ギャップの算定
⑥戦略的代案の摘出

戦略的代案には次のようなものが紹介される。
・新規事業への参入
・新市場への転出(海外市場など)
・上方、下方へのインテグレーション(クライアント側や下請け側への進出)
・合併、吸収
・業務提携
・事業分離
・撤退、縮小、売却

⑦代替案の評価、選定

・回収期間法
・割引キャッシュフロー

⑧中期経営戦略の実行計画(ライン作業への落とし込み)

製品系列のポートフォリオ管理

企業が置かれている環境(求められる現金収支と売上高)や、選択する強み・価値観はそれぞれ異なるため、製品の最適なつり合いも状況により異なる。
そのため、ある事業を売却したい(キャッシュを獲得したい)企業がいる一方で、買収をしたい(事業をより強化させたい)企業の間での売買が成立することが語られる。

(キャッシュフローの制約が問題となるような、資金流動性が低い環境でポートフォリオ管理は重要となる)

・「市場成長率」と「自社のシェア」で考える従来のポートフォリオ選択(BCGが考案)
・「業種の魅力度」と「自社の強さ」で考える新しいタイプのポートフォリオ選択(マッキンゼーが考案)
について紹介される。

業種の魅力度
・業種を取り巻く環境(社会的、法的など)
・収益性(業界一位の収益性や傾向、カギとなる変数など)
・競業状態(寡占度、新規参入の難易など)
・市場(サイズ、成長率、安定度など)

自社の強さ
・競争力(シェアなど)
・収益力
・資源力(人材力など)
・技術力
・販売力

KFS

KFS:結果に影響を与える主要因。Key Factor for Success

・原材料の確保
・生産設備
・設計
・生産技術
・品揃え
・販売力・販売網
・サービス
が事業のKFSとなるケースについて個々に解説される。

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