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会計情報における技術力の開示について考察

2019/11/04

大学生のときに会計の授業で書いたレポートです。
パソコンに保存しておくのもなんかもったいないので,ブログに投稿してリサイクル。

序論

本レポートでは,会計情報における企業の技術力の開示について調べ,考察を行うことを目的とする。

この課題を選定した背景として,近年「AI」「IoT」などの抽象的な流行り言葉で事業の宣伝を行う会社をよく見かけること,最近では,「仮想通貨」「ブロックチェーン」などのワードを発した企業の株価が軒並み上昇していたことが挙げられる。

一方で,私は学部生といえども大学の研究室に所属している立場として,技術力の差というものがいかに抽象的で画一的には評価し難いものであるかを日々実感している。
そこで安直な企業価値の上昇が起きた株式相場を見て,投資家に対して,企業の技術力を評価できる環境がどの程度整っているのか疑問が生じたのである。

本論

技術に関する会計情報を調べたところ,「研究開発費」「ソフトウェア」「特許権」「のれん」などの科目が会計情報として開示されていることが分かった。以下にその詳細を示す。

研究開発費

国際的な会計基準であるIFRSは,開発局面における一定の要件を満たす金額を資産として計上する必要があるとしている。
一方,日本の会計基準と米国会計基準では,研究開発の際に発生した人件費や原材料費などをすべて費用として処理することとしている [1] [2]。

つまり,日本と米国の会計基準では,研究開発を行えば行うほど費用が増加するため業績が悪く見えてしまうという特徴がある。
これは,全ての研究開発が成功するとは限らず,発生時には将来の収益を獲得できるか否か不明であることを理由としている [3]。

この研究開発費の処理について興味深い例を示しているのがAmazonである。
Amazonは世界で最も研究開発費を支出している企業であり,売上高を年々伸ばしているにも関わらず,利益率は0.8~3%程度にすぎない状態となっている。

しかし,KindleやAWS,Alexaなどの事業の研究開発を上手く事業へと昇華させられているため,振るわない利益にもかかわらず株価が上昇し続けている [5]。

これは,開示されている会計情報が実態に即しておらず,投資家側のほうが正しく企業の技術を評価できている一例ではないかと考えられる。

また,以前は日本の会計基準に「試験研究費」として資産として計上することができるものがあったが,現在は「開発費」という科目のみとなっている。
これは会社の経営構造に関わる費用に限られているものであるため,技術力を示すことができるような指標ではなくなっている [4]。

ソフトウェア

ソフトウェアの場合,販売用ソフトの製品マスターや,自社利用ソフトウェアの将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められるものは資産として計上することができる。
ただし,それらのうち研究開発のためだと考えられるものは研究開発費として費用になる [6] [7]。

特許権

企業が持っている技術力を表すものとして特許が考えられる。
しかし,特許権は自己で創設する場合は出願料や手数料,他者から購入した場合は買入の費用で記載され,特許から得られる潜在的な収益などを開示できるものではないようだった [8]。

のれん

のれんは企業再編において,引き渡された企業の財産的な価値を支払額が上回る場合の差額である。
企業が経営を継続していく過程で蓄積された従業員の質の向上など、測定しえない潜在的な超過収益力を指す [9]。

すなわち,費用とされた後,無事に企業への貢献ができた研究開発費などは,他社に買収される際にのれんとしてようやく資産に現れるのではないかと考えられる。

ただし,買収の金額自体が技術を評価できているのか客観的に検証することができないため,のれん自体も企業の技術を適切には表すことができないと考えられる。

結論

技術の評価に関して情報を集めた結果,想定していたよりも客観的な評価が難しく,技術から得られる便益などが完全には会計情報で開示できないことが分かった。
現状では技術が雰囲気で評価されるのも仕方ないのかもしれない。

個人的には,技術は属人的な部分が大きいと感じている。

そのため,企業は新製品のプレスリリースなどを行う際に研究開発に貢献した人物を適切に開示し,その人物が退職していないか,他社へ転職していないかなどの情報も気軽に入手することができるようになれば,企業の技術力を評価する1つの変数として役立てられるのではないかと感じた。

参考文献

[1] 新日本有限責任監査法人, “研究開発費の具体例と会計処理,” 28 3 2011. [オンライン]. Available: https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/software/2011-03-28-02-01.html. [アクセス日: 30 5 2018].
[2] 新日本監査法人, “「研究開発費に関する論点の整理」,” 21 1 2008. [オンライン]. Available: https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/accounting-topics/2008/2008-01-21-01.html. [アクセス日: 1 6 2018].
[3] 新日本有限責任監査法人, “研究開発費とソフトウェアの概要,” 28 3 2011. [オンライン]. Available: https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/software/2011-03-28-01-01.html. [アクセス日: 1 6 2018].
[4] 国税庁, “繰延資産の範囲について,” [オンライン]. Available: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070914/pdf/26.pdf. [アクセス日: 1 6 2018].
[5] SankeiBiz, “違っていた「目のつけ所」 なぜ日本企業がアマゾンに“してやられた”のか,” 3 5 2018. [オンライン]. Available: https://www.sankeibiz.jp/business/news/180503/bsd1805031600001-n2.htm. [アクセス日: 1 6 2018].
[6] 新日本有限責任監査法人, “自社利用ソフトウェア(制作取得費の会計処理、減価償却、減損),” 4 11 2016. [オンライン]. Available: https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/industries/basic/software/2016-11-04-03-01.html. [アクセス日: 1 6 2018].
[7] “市場販売目的のソフトウェアの会計処理,” 21 3 2011. [オンライン]. Available: https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/software/2011-03-31-02-01.html. [アクセス日: 1 6 2018].
[8] 株式会社ピクシス, “特許権の説明,仕訳例,” [オンライン]. Available: https://www.lan2.jp/jisyo/journal.asp?aid=1432. [アクセス日: 1 6 2018].
[9] 新日本有限責任監査法人, “のれん(企業再編),” [オンライン]. Available: https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/glossary/restructuring/noren.html. [アクセス日: 1 6 2018].

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